つぶやきより少しだけ長い何か。

忘れたくない感覚の記録

人口50人の犬島に、半年で3日滞在した話。

今年は瀬戸内国際芸術祭が開催されている、人口約50人の岡山県犬島に、半年で3日滞在して遊んだ。

 

今年はじめに犬島に渡ったのはゴールデンウィークのとき。GWは倉敷を中心に瀬戸内やしまなみを巡っていて、最終日に犬島に立ち寄ったのだ。

 

犬島へは岡山市の宝伝港という港から船で渡る。港の周辺には駐車場があるけれど、それほど余裕はないので、早めの時間に港を目指した方がよさそうだ。

 

 

船はそれほど大きな船ではなくて、芸術祭をやっている間はすぐに定員いっぱいになってしまうけど、芸術祭の間は増便もしてくれているようだ。船も定時の時間ぴったりではなく、定員になったら10分前でも出航してしまったりと、わりとアバウトな運行をしている。

 

GWの頃は、まだ知床の海難事故のニュースがTVでひっきりなしにやっていた時期で、久々の船旅にもやや緊張感があったが、瀬戸内海はやはり穏やかだ。10分ほど船に揺られると、ほどなく船は犬島に到着する。

 

 

犬島は10分も歩けば、島内の大体の目的地に辿り着けてしまう小さな島だ。この日は街の中を探索して、「家プロジェクト」の展示を鑑賞したあと、犬島にある最も大きな美術施設である、犬島精錬所美術館を見学した。

 

 

なんの前知識も持たずに訪れた犬島精錬所美術館は、館内が撮影禁止なので詳細を語ることができないけれど、展示室に向かう動線が意外なつくりになっていて面白かった。洞窟のような館内のひんやりした空気が今も記憶に残っている。

 

 

GWに訪れた犬島は、天気も気温もちょうどよく、島内にある展示だけでなく、抜けた視界に広がる瀬戸内海とか、とにかく滞在していて心地のよい場所がたくさんあった。

 

このとき島内を歩いていて、島には手頃な値段で滞在できる犬島自然の家という県立の宿泊施設があることを知り、今度はお盆に泊りがけで来よう、という話になる。

 

そうしてお盆休みに再び訪れた犬島。

 

ここで一つ前提の話をすると、宿泊する犬島自然の家には食堂などの食事を提供するサービスがない。また島内にもスーパーなどの食料を買えるお店がないので、観光客向けの飲食店が開いているお昼を除いた朝夕の食事は島外で自ら確保する必要がある。

 

料理が好きな奥さんはこのサバイバル感ある制約にむしろ「燃えた」ようで、旅行の前日まで、現地で食べる食事の作りおきと冷凍をせっせとこしらえていた。そんな事情もあって、二回目に訪れたときの荷物は、クーラーボックスにキャリーケースにと、かなりの大荷物になってしまった。

 

キャンプ感のある犬島での朝ごはん。

 

そんな若干の不便さもある犬島自然の家だったが、施設そのものはとてもキレイで清潔感があり、部屋もたまたま空いていたのか、四人家族なのに十人くらいは寝転がれそうな大部屋の和室を使わせてもらえて、居心地よく滞在できた。

 

 

そうして訪れた二回目の犬島の初日は、もう島内の美術施設は一通り見ていたので、自然の家の目の前の海で釣りをしたり、昆虫採集をしたり、花火をしたり、と自然を満喫するアクティビティをして過ごした。

 

 

夕方、日帰りの観光客向けの船がすっかり出てしまった時間帯に、自然の家から美術施設がある街の方まで散歩に出ると、前回の滞在では見られなかった夕暮れの空気が感じとれたのも良かった。

 

 

犬島自然の家で体験できるアクティビティで、最も記憶に残ったものが、夜に施設の方が開催してくれる天体観測プログラムだ。

 

岡山県はもともと天体観測に条件のよい土地柄であり、県内に多くの天体観測ができる施設を有しているが、この犬島自然の家にも一台数千万円はする高価で高性能な望遠鏡があって、そんな望遠鏡を施設の方の指導のもとに覗かせてもらうことができるのだ。

 

 

この日はあいにく天候はベストではなかったが、ちょっと雲間から月が覗いたときに月のクレーターがはっきり見える様子を観察できたり、小さいけれど土星の輪っかも望遠鏡を通して確認することができて、子どもたちは大はしゃぎだった。

 

犬島滞在の二日目は、犬島から、同じく芸術祭開催中である豊島に渡った。犬島から豊島へは、芸術祭開催期間中のみ船が出ており、小一時間ほど船に乗ると、豊島に辿り着くことができる。

 

 

豊島は犬島とは違って、島内の移動には車が必須なくらいの大きな島なので、港の近くのガソリンスタンドでレンタカーを借りる。レンタカーといっても走行距離が10万kmオーバーのワンボックスカーだけど。

 

豊島にある美術施設の一番の目玉は、開けた丘の中腹にある豊島美術館という美術館だ。「インスタ映え」で有名な、海に向かって消えるようにカーブする道路を曲がった先にその美術館はある。

 

 

豊島美術館も犬島精錬所美術館とコンセプトが似た、展示というよりは体験型の美術館になっている。メインの展示は撮影ができないのでやっぱり詳細は語れないけど、今まで体験したことがない形で、アートと身体の一体感を感じることができて、自分の感覚をリフレッシュできた気がする。

 

 

豊島もひと通り満喫して同じ船で犬島に戻ってきたら、島はまたすっかり夕暮れになっていた。この日は、自然の家までの帰り道に、土日だけ店を開けていたホッピーバーに立ち寄って喉を潤した。

 

 

そんな感じで二泊で再び訪れた犬島も、たっぷり瀬戸内の空気を満喫して楽しむことができた。

 

夏に訪れた犬島は、暑くて虫も多くて、始めは道すがら蜂を見かけるたびに家族でキャーキャーいいながら逃げ回っていたのだが、帰る頃になるとすっかり冷静になって交わしていたりと、子どもたちも自然に対して逞しくなっていたのも、可笑しかった。

 

今年は芸術祭が開催しているので、いつもより少し賑やかな瀬戸内の島々であるが、芸術祭がやっていなくても、この穏やかな海と空気を感じにまた来たいな、と思わせる犬島滞在だった。

 

瀬戸内国際芸術祭は、この後も9月29日から11月の頭まで秋シーズンが開催予定であるようだ。犬島は車があれば瀬戸内の島の中でも比較的訪れやすい島だと思うので、芸術祭に興味がある方も犬島の自然に興味がある方も、ぜひ訪れてみてほしい。