つぶやきより少しだけ長い何か。

忘れたくない感覚の記録

小学生の子どもに「まんがで読破」シリーズを読ませてみた。

ゴールデンウィークに岐阜に帰省したとき、久しぶりに「みんなの森 ぎふメディアコスモス」に立ち寄った。

 

 

ぎふメディアコスモスは、岐阜市立図書館を中心とした複合施設で、多摩美術大学の図書館などを設計した伊藤豊雄氏による建築の居心地がとても良くて、「冴えない地元だけど図書館だけは今住んでるところと取り替えてほしい...」と訪れるたびに毎回思ってしまう。

 

子ども達も広い図書館の中をめいめいに、興味のある本を探して歩き回っていたが、その中で、子供向け書籍の一角に、世界の文学名作をまんがで読める「まんがで読破」というシリーズのコーナーがあるのが目に止まった。

 

そのいくつかをパラパラとめくってみたら、小5となる子どもが入門として読むにはちょうどよいシリーズかもしれない、と興味を持ったので、自宅に戻った後、そのいくつかをAmazonの中古で購入してみた。

 

「まんがで読破」シリーズのラインナップは、夏目漱石太宰治のような日本の代表的な近代作家の作品から、ダンテの「新曲」やホメロスの「イリアスオデュッセイア」のような世界史で見たことのある作品、さらには夢野久作の「ドグラ・マグラ」のような癖の強い作品まで、かなりバリエーションに富んでいる。

 

その中から、日本文学と外国文学を織り交ぜて、手始めに下記の五作を選んで、親子で読んでみた。古典を読むのが苦手だった私自身、いずれも原作を読んだことのない作品ばかりなので、それぞれ読んでみた感想をレビューしてみたい。

 

 

ドストエフスキー罪と罰

 

自分もこれまで何度か原作を読んでみようと思い立って、読めずにいた作品。ストーリー自体は少しミステリーな要素もあるので、マンガになると子どもでもとっつき易かったようで、子はあっという間に読み終えていた。けれど、罪を犯すとは?罰を受けるとはどういうことか?という作品のテーマにもしっかりと踏み込んでいて読み応えがあった。

 

小林多喜二蟹工船

 

昨今では「ブラック企業」を例える時に引き合いに出されることも多い、プロレタリア文学の代表作「蟹工船」。こちらも、過酷な労働に晒される労働者と、そこから得られる利益を搾取する資本家、という対立構造が子どもには分かりやすく、読み進めやすかったようだ。読み終えた後、当時と今の労働管理制度の違いについて話し聞かせてみたり、子どもが社会の仕組みへの興味を深めるきっかけになったのも良かった。

 

太宰治人間失格

 

太宰治の代表作であり、自伝的な私小説でもある「人間失格」。このシリーズの中でも、原作の雰囲気の再現度合いが随一ではないかと思うくらい、主人公の心情の変化や堕落の道を辿る描写がリアルで、それが子どもには少し怖いと感じてしまう位に、読後のインパクトが強烈だったようだ。普段、子供向けの文学作品ばかりを読んでいる子どもに、こういう小説もあるのだということを知る機会を与えるには、良かったのかもしれない。

 

森鴎外舞姫

 

明治時代のエリート青年と、ドイツ人の踊り子との恋を描いた、森鴎外の代表作。恋愛要素の強いストーリーだったせいか、こちらは小5の息子よりも小3になる奥さんの娘ちゃんの方が面白そうに読んでいた。当時のエリートを描いた小説であるが、そろそろ受験教育の入り口に立っている上の息子には、それらの描写はどのように映ったのだろうか。

 

プルースト「失われたときを求めて」

 

ご存知、小説版では文庫で10冊を超えるボリュームとなる海外小説の超大編。一生のうちに小説版で読む気力も時間もなさそうなこの作品こそ、マンガで読む意義があるのではないかと思って購入してみたが、マンガのほうもシリーズ随一の長さである。さらには原作のテーマが難解なこともあって、子どもも読み進めるのに苦労していたし、読後の理解もまだフワッとしているようだ。かくいう私も、この作品だけは読解に苦労しているので、時間をかけて何度か読み返しながら消化していきたい。

 

購入した五冊をそれぞれ子どもにも読ませてみたけれど、総じて子どもには好評であったし、マンガの取っつきやすさのおかげで、とりあえずどれも読了できて、読後感が記憶に残ってくれたことは良かった。この先、歴史の授業などで再び作品のタイトルを目にしたときに、ただタイトルを覚えるよりも、イメージが結び付きやすくなっているといいな、と思う。

 

「まんがで読破」シリーズは、紙の中古版をAmazonで購入することもできるが、Kindle端末を持っていれば、電子版で購入したり、Kindle Unlimitedのサブスクで読むこともできる。もし興味を持たれた方がいれば、自分にとって思い入れのある作品や、身近な作品から、子どもに与えてみるのも良いかもしれない。